【読書会】ミノリトを読む #01

MiNoRi+創刊号の作品を深掘り!
編集部メンバーと村野真朱先生による特別対談企画を連載形式でお届けします。

第一回『楽園』『カバーデザイン』

藤城
皆様、お時間いただきましてありがとうございます。
本日はもっとミノリトを楽しもう!ということで、『ミノリトを読む』と題し、読書会を開催いたします!

イトノ村野わだ
よろしくおねがいします~!

藤城
まずはね、我々の名乗りをしていきましょうか。
今回の企画は編集部員3名とゲストに村野真朱先生をお呼びして、計4名でやっていきたいと思います。
ということで、司会進行の藤城です。よろしくお願いします。

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藤城 まり子

ミノリト代表。2021年にKADOKAWAより商業デビュー。2023年夏にイトノと本誌創刊を起案。
ミノリト掲載作品:『楽園』『彷徨える人へ』


イトノ
同じく司会のイトノです。よろしくお願いします。

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イト ノケイ

ミノリト代表。2023年夏に藤城と本誌創刊を起案。
ミノリト掲載作品:『カナリアの歌う朝』


わだ
編集部のわだです。今日は主にみなさんの感想や制作の話を聞くのを楽しみに、少し私の感想も話しにきました。よろしくお願いします。

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わだ めぐみ

ミノリト編集部メンバー。
編集プロダクション・出版社勤務を経て、現在はフリーランス。漫画やウェブの校正・校閲をメインに、編集、文筆、DTPなど色々やっている。
困ってる人文編集者の会が発行するZINE『おてあげ』に寄稿。


村野
ゲストの村野です。よろしくお願いします。めっちゃ楽しみにしてきました。

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村野 真朱

小説家、漫画原作者。
原作を手がける漫画『琥珀の夢で酔いましょう』を月刊コミックガーデンにて連載中。
ミノリト掲載作品:『虎態(とらなり)』


藤城
さて、まずはこの企画で取り上げる『ミノリト』とはなんぞや?というところですけれども。
ご存じない方もいらっしゃると思いますので、ミノリトのご紹介を改めて。

『MiNoRi+(ミノリト)vol.1』

ジェンダーマイノリティ/セクシュアルマイノリティを主題とした創作物(漫画・小説・短歌・イラストなど)を専門に取り扱う雑誌。
 『創作を安心して読める・発表できる場』を目指して有志の作家の藤城・イトノにより発足。
『聴く』を特集した創刊号では計8名の作家がミノリトの理念に賛同し、読者に寄り添い、ともに歩んでくれる、あたたかで力強い作品をお届けします。

イトノ
冒頭から順に追っていこうかなと思っておりますが、みなさん、お手元にミノリトはございますか?

わだ村野
あります!

藤城
ありがとうございます!
今日はミノリトを、隅から隅まで読み尽くしていきましょう!
では早速ですが、表紙を開くと注意書きがございまして、その後すぐ冒頭から、楽園という作品に入っていきます。

『楽園』藤城まり子

喫茶店で一人の時間を楽しむ主人公。 周囲から聞こえてくる様々な客の会話に、いつしか主人公の空想は広がっていき…

藤城
で、これは自分が描いてる作品なので、私はちゃちゃ入れぐらいにしとこうかなと思います。

イトノ村野わだ

当記事ではMiNoRi+創刊号作品の内容に触れています。
ネタバレを気にせず楽しみたい方は、ぜひ書籍版や電子版の購入をご検討ください!

『楽園』を読む

絶望だけがあるわけじゃない

イトノ
まずはやっぱり、冒頭にいきなり作品が来るという構成について。
かなり早い段階で、まり子さんの作品を冒頭と巻末に1作品ずつ入れるという案があって。目次の前に来ることで、プロローグやオープニングのような役割になればいいなという思いからこの掲載位置になってます。

藤城
ミノリトという媒体の幕開けなので、ハッピーな話が来てほしいなっていうのがあったんですよね。未来が明るくあってほしいじゃないですか。
ただ、皆さまからご寄稿いただく作品がどんなものかというのは、その時点では全然わからなくて。コントロールできるものでもないので、じゃあ自分が描くわみたいな感じで、これを入れました。

イトノ
この後に続く作品を予感させる始まり方というか。オムニバス映画っぽい構成でもあるし、面白いかなと思って。

わだ
うんうん。

イトノ
この読書会では、まずは印象に残ったところをみんなで言ってきたいなと思ってますが、
どうしようか。だ…誰から行くとか決める?

藤城村野わだ

藤城
イトノさんは半分くらい制作に関わってるので、もし他のお2人から聞けるなら聞いてみたいです。ウキウキ!

わだ
じゃあ、言っていいですか?

イトノ
お願いします。ウキウキ。

わだ
さっきのイトノさんのお話にもあったように、プロローグ的な、希望の始まりみたいな印象がまずありました。これからいろんな人生とか生活みたいなものの話が始まるんだろうなって予感があるけれど、絶望だけがあるわけじゃないというか。もちろん絶望はあるんですけど、それだけで終わらない物語が始まるんだなっていうのが、この巻頭の『楽園』ですごく出てるなと、最初もらった時に思いましたね。

個人的にすごく好きだったのは、主人公が自分の部屋を考えている時に、「本当はもっともっと好きなものに満たされたい」というところで。もちろん他にも、日常のふとした幸せみたいなものを描かれてるところとか、めちゃくちゃ好きなんですけど。なんだかここは、「わかるな~」みたいな感じが特に強くて。
常にもっともっと好きなものがいっぱいあってやりたいんだけど、いろんな制限があったり、全部が叶うことではない。ただ、別にそれを考えていること自体というか、「なんかいいな」と思うこと自体は、ある意味絶望でもあるんだけど、ある意味すごく幸福な未来のことを考えられる時間でもあって。それをさりげなく描かれてるコマだなって。絵も含めて、ワインを片手に部屋を見てる感じとかも、すごく好きだなって思いました。

藤城
え~めっちゃ嬉しい。

イトノ
何も特別なものを求めてるわけじゃないもんね。
まり子さんからプロット案を聞いた時にも、そんな話をしてたね。

藤城
本当におっしゃる通りで、そんなに特別なことなんて何も訴えてないのにねっていうのは、常日頃やっぱり話してて。
ハッピーであると同時に、たまたまこの本を開いた当事者ではない人に対しても「マイノリティって別に特別なこと求めてないじゃん」っていうことを伝えられたらなっていうのがありました。

イトノ
なんでもない日常のシーンを描くのがめちゃめちゃうまいですよね。まり子さんは。

わだ
すごい素敵でした。日常の感じが。

藤城
ありがとうございます。ドキドキしちゃう。

村野
じゃあ、私も言っていいですか?

イトノ
もちろんです。

村野
わださんともかなり被っちゃうかなと思うんですけど。
私も確かネームを見せてもらった時が最初だった気がするけど、やっぱり生活の話を、しかもワクワク描いてるっていうのが。これがミノリトという雑誌の最初にあるっていうのがめっちゃいいなと思いました。

われらはすでに共にある:反トランス差別ブックレット(2023  現代書館)  が私は大好きなんですけど、その中に、三木那由他さんの『くだらない話がしたい』っていうエッセイが載ってて。ばかばかしかった映画の話とか、最近はまってるゲームの話とか、雰囲気がよかったカフェの話とか、そういう話を何気なくしたいっていう話を書いてらして。今回、楽園を読書会の前にもう1回読み直した時に、それを思い出したんですよね。
『くだらない話がしたい』では、いくらくだらない話をしてても、どこかでトランスネスが出てしまって、シスジェンダーの人の顔色が変わっちゃったりする時ってあるけど、本当はもっと何気なくくだらない話したいよねっていう話がされていて、そういうことができる場所を守る・つくるためなら、ちょっとシリアスな話もしていいよね、という風に結ばれているんだけど、『楽園』はその理想を叶えたような作品だなと思って。それを感じながら読んでたら、最後に『ル・パラディ(※仏語で『楽園』)』ってタイトルが来るじゃないですか。あれがもうなんか……いや、楽園だなと。求めてる場所ってそういうところだよな、いい始まりだなと思って。

藤城
めっちゃ嬉しいよ。

村野
素敵だなと。
そこが伝わりづらいこともあるからこそ、ぜひそこを読んでほしいなって思いました。

イトノ
伝わらなさって、物語になってくると急に伝わることもあるよね。

藤城
体験談とかではわかりづらいこともあるかもしれない。

村野
だからこそ、物語になってるっていうのがすごくいいなって思いました。

藤城
ありがとうございます。

村野
あと、私は植物表現が大好きなので、植物がいっぱい出てきて嬉しかった。

わだ
私もすごく好きでした。

藤城
これはですね……村野先生にそそのかされて。

イトノ村野わだ

藤城
うちに植物がたくさんあるんですよね。村野先生にいただいたのをきっかけにして……この作品に出てくる家ってほぼ、自宅なんですけども。

村野

藤城
植物がある生活ができるのも、一種の豊かさだと思うので。なんかね、はっきり描かなくても、そういうところも入れこみたかったというか……ごめん、すごいふわっとしてること言った。単に描きたかったんです。

イトノ
植物育て始めると急にさ、「なんか生き物が家にいる!」みたいな気持ちになるよね。

村野
植物って生え方とか育ち方、みんな違うじゃん。
「この子はこういう生え方するけど、あっちの子はああいう生え方する」みたいなのが面白いし、「そうだよな、生き物ってみんな違うよな」っていう感じで安心するというか。
植物のある生活はいいぞ。

イトノ
世話するっていうより、コミュニケーションしてるみたいな感覚になる時あるもんね。

藤城
うん。水……足りてる?みたいなのとか、やっぱり様子見てだからね。

村野
寒いとか暑いとか。言ってるよね、みんな。

藤城
ですよね。これも植物の声を「聴く」ということで。

イトノ村野わだ

当たり前さが当たり前に描かれる『楽園』

イトノ
村野さんが触れてくれた『楽園』ってタイトルは、かなり早い段階で決まってた記憶がありますね。

藤城
うん。プロット以前の段階でもう決まってましたね。

イトノ
そうだよね。なにかこだわりとかがあったのかなって。

藤城
こだわりというか、こんな話描きたいな、の前に、自分にとっての楽園ってなんだろうってとこから入っていったの。自分は高層マンションに住みたいとか、そういう欲は特にないタイプだけど、やっぱり居心地よく暮らしていける環境は楽園と呼べるだろうなって。
『楽園』にはちょいちょい隣の席の人たちが出てくるじゃないですか。その人たちもみんなマイノリティなんですよ。明確に描いてないんですけど。

村野
うん。そう読んでました。

藤城
よかった。マッチングアプリで知り合ったゲイの2人。

村野
うんうん。

藤城
反対側に座っている子供連れの家族は、トランス男性と結婚した女性とその子ども、として描いてます。作中ではっきり描いてないし、多分そういう風に読む人、ほぼいないんじゃないかなと思うんですけど。でも、そのくらい埋没して暮らしてる人っていうのは実際に、当たり前にいる。
喫茶店で働くとか植物を育ててみるとか、この作品には割と自分の経験や生活の話が入ってきてます。今、自分はそこそこ楽しく暮らしているけれども、楽園って理想、つまりより良い環境だから。その当たり前さが当たり前に描かれるっていうのも、より良い環境の一つだなって肉付けをしていって、この話が出来た。だから、タイトルも喫茶店の名前もおのずと楽園になったってかんじです。

イトノ
描き方がいいよね。主人公だけじゃなくて、周辺の人にもちゃんと人生があって生活があって、というのが見えてきて、かつ、それが日常に当たり前に存在してるマイノリティなの。

村野
みんな居るよね。

イトノ
一般商業誌とかでこういうふうに、ただ居ることを描こうとすると「それわざわざ描く必要ある?」とか、読者からも「なんでそこでマイノリティを出すんだ」みたいな声が出てくるじゃないですか。いや、逆だよと思ってて。当たり前に現実に存在しているのに、それをわざわざ描かないとか、いないことにするほうが、ものすごく不自然だなって思うので。こういう描き方をしてる作品がやっぱりもっとあってほしいなって。すごく思う。

藤城
よかったです。

イトノ
日常の解像度がいいね。
あと自分が好きなポイントは、『楽園』の構成。空想と現実が入り混じって、現実に浸出してくるみたいな、この感じがすごく好きで。
現実がしんどいと、空想に逃げるというか、空想の中でやり過ごしたいって思うこと、あるじゃないですか。かと言って、その中だけでやり過ごすわけにもいかない。そういうマイノリティの置かれてる現状と、ちょっとリンクしてくるような気がして。
でも『楽園』はシリアスすぎなくて、わくわくしながら読める。ハッピーな空想が実は現実にも繋がってて世界を満たしてくれるっていうのがすごく好きで、いいなって思ってます。

藤城
今、私はピースサインをしています。

イトノ
空想の物語が現実に影響してくるっていう構造は、この作品と読者の関係にも当てはまるなって。
例えばミノリトについてなにも知らない人が、一般書店に置かれているのを手に取って、どんな雑誌なんだろうって冒頭の『楽園』を読み始めても、もしかしたらマイノリティをテーマにしているとは思わないかもしれない。でも、これって途中からすっごいシームレスにレズビアンの話になってくるじゃないですか。

村野
うんうん。

イトノ
読み終えた時に気づく。これってマイノリティを描いてる作品なんだ、って気づいた時にはもう物語に入りこんでる。そうなったら次は「マイノリティって当たり前にいるんだ」っていう気づきで現実世界を見ることになるかもしれない。そういう体験ができるのも、冒頭にある役割だなって思います。うまく言えてるかな。

藤城
作品として、当たり前にいますよ、の話をやっぱりしてるんだよね。
あれっこれレズビアンの話だったの?って、そこを意識しないで読み終われちゃうというか。意識しなくてもここにいるぞ、というのを体感してほしかったんだよね。

イトノ
あとね、主人公2人のキャラクターがすごく可愛い。もうね、単純に。

藤城
嬉しい。もうちょっとね、作画の時間取って、丁寧に描いてあげればよかったなとは思ってます。某商業ビルの休憩室でどうにか描き上げた作品なので。

村野
生活と労働。

藤城
大変でした、あの時は。労働と転職とか……。
公私共にすごかった時期ですね。うん。

村野
我々には生活があるし、生活の中で描いてるんだよね。大変だったね。

藤城
精神的にちょっとやばかったと思う。毎日泣きついてたよね。

イトノ
そんな中で2作品もよく描いたなって思う。
この作品のプロットを思いついた時の話もすごかった。「やばい!降りてきた!」みたいな感じになったのがお風呂場で、慌ててバタバタバタって出て、頭びしょ濡れのまんまスマホにメモったって。

村野わだ

藤城
その日はたまたまスマホをリビングに置いたままお風呂に入って。けど、そういう日に限ってアイデアが出てくるんだよね。もう今すぐメモんなきゃ!って状態だったから、バスタオル巻いて、スマホ取って脱衣所に戻ってびしょ濡れのまま……。

村野
わかる、お風呂がいちばん出てくるよね。

イトノ
自分も風呂と散歩してる時がよく出てくる。スマホ触れない時がいちばん思いつく。

村野
血流良くなるからかな、お風呂も散歩も。脳のリソースが空くのもあるよね。

藤城
スマホあるとついSNS見たりしちゃうし。

わだ
つい、ってありますね。

イトノ
あとは表紙案揉んだ時もそうだったけど、一度離れるのがよかったりするよね。

村野
ぼーっとしてる時の方が出たりする。

マッチングアプリで出会った二人
隣の席の家族の会話

カバーデザインを読む

物語を必要としている人へ

藤城
今、表紙の話が出てきたので。
次は非常に好評なミノリトの表紙を見ていきましょうか。

MiNoRi+ 創刊号表紙


作家としても参加してくださっている百葉箱さんが、表紙デザインとロゴデザインとを手掛けてくださいました。これね、すごく丁寧な資料を、最初に作ってくださいまして。ちょっと共有したいなと。

わだ
資料があるんですか。

藤城
そう、表紙をお願いしたいですって、我々かなりざっくりとした依頼をしましたら、なんと4案ぐらいご提案してくださって。そのどれもこれもが素敵だったので、ぜひそれを見ていただきたいなと。

百葉箱さんによる表紙&ロゴ案資料

村野
すごい。企業に出すプレゼン資料だ。

藤城
でしょ。本当に丁寧に作ってくださっていて。

村野
でも第1案でもう固まってるね。

藤城
そうですね、今回の表紙とほぼイコールのもの、出してくださっています。最初から。

村野
B案のロゴも可愛いね。グラデーションになってる。

わだ
周囲のあしらいの部分、あれですよね。グッズに使われていた?

イトノ
缶バッジの背景に使っているこれです。可愛いよね。グッズも百葉箱さんがデザインを担当してくださってます。

ミノリト缶バッジ

村野
レインボースペクトラムという意味では、B案もすごくいいな。

イトノ
ね。うんうん。

藤城
本当にね、どれもすっごい素敵に作ってくださったんですよね。
C案はロゴが実は生きてまして。

イトノ
コーポレートロゴ的な扱いで使わせていただいています。
SNSアイコンとか。

SNSアイコンに使用されているロゴ

 村野
使いやすそうだね。完全に運用目線で喋ってしまうけど。

藤城
そうなんですよね。正方形に収まる感じとかすごく使いやすい。

わだ
確かにロゴって、そういう場面で使うことが多いですもんね。

イトノ
タイトルロゴとは区別して使ってるんです。
このロゴは、いろいろな人が集まっておしゃべりしてる感じがコンセプトだと仰っていて、それも素敵だなって。

村野
文学フリマでミノリトのバッジをつけてたら、知ってる人はみんなバッジ見て、あっ!って言ってくださったんです。それだけで関係者だということをわかってくれて。ロゴをすごくはっきり認識して頂けてるんだなって思いました。

藤城
やっぱりロゴって大事だなって、すごく思いますよね。
C案のロゴは本当に良かったんですけど、可読性を考えて、タイトルロゴとしては除外したんです。でもとっても素敵だったので、こういう形で使用させていただきました。

イトノ
この2つのロゴは、ミノリトの企画を始めてから1番最初にできた制作物でした。

わだ
最初の大きなひとつの指針のような役割もあったんですね。

藤城
ミノリトを始めるうえで、やっぱり広くみんなに知ってもらいたいという思いが私とイトノさんの間であったので、ブランドイメージというか、ビジュアル作りもきっちりやっていきたいね、という話ははじめからしてたんです。特にロゴって看板のようなものというか、そういう役割があると思うので。
それで百葉箱さんにご相談したら、こんなにいいものをいっぱい提案してくださって。

村野
みんなの思いが詰まってる。

藤城
うん、詰まっています。
表紙はね、いくつもある中で何故A案にしたかというと、ぱっと見ただけで、これがどんな雑誌であるかがわかるからです。
こういう雑誌の表紙って絵の力が強いので、例えばB案だと、メインビジュアルに漫画のキャラクターなりイラストが入ってくると思うんですけど、そうすると、小説や短歌などのテキスト媒体の作品がどうしても後ろに下がっちゃうような感じがあると思うんですよ。創刊号の掲載作品は数で言っても漫画が多いですし。でも小説も短歌も、漫画の添え物として置いてるわけではもちろんない。全ての作品が並列に並んでいる、全部大切な作品なんだっていうことも、ミノリトしてやっぱり出したくて。A案はそれを叶えてくれていて、見た瞬間に即決でした。

イトノ
そうだね。すぐにそこの意見が一致して、あまり悩むこともなかったかな。
運用としては表紙イラストを誰かに依頼しなくていいという利点もあった。

藤城
裏話としてね。
でも、イラストを別途描いてもらう方がある意味楽ではある。今の表紙案は完成稿が全部上がってきてから、コマとかテキストを選定するやり方しかできないので、手間はすごくかけてくださっているんです。

村野
構成が大変。

イトノ
本当に。コマ選定も、今回は百葉箱さんが担当してくださいました。

村野
改めて全案見て、今回採用された表紙案はやっぱり作品から引用してることもあって、物語を必要としてる人に向けている、そういう人に求めてほしいっていうのがすごくよく伝わる表紙だなと思います。
物語そのものを前面に押し出して、この物語が気になる人は手に取ってくださいっていう表紙。すごくコンセプトが伝わるね。

藤城
コマを選定してくれた百葉箱さんが、作品それぞれのパワーが強いので、そんなに悩まずに選定できたと仰っていて。
実際に仕上がったミノリトの表紙はすごく力強いものになった。各作品のメッセージがダイレクトに伝わる表紙になったので、これは本当にね、いいものができました。

村野
作家としては、「ここ選んでもらえるんだ」みたいなのもあり。嬉しかった。

イトノ
だよね。あとは、若干ネタバレとの兼ね合いもあったかな。ここ入れるかどうするかみたいなの、ちょっとだけ話し合ったね。

藤城
ほんの1コマくらいだけど、あのセリフだけ見切ってくださいとか。
細かい調整も対応してくださって、本当に、ひたすら感謝でした。

イトノ
これだけで1つの作品って感じだよね。

藤城
実際、イベント会場でものすごく表紙を褒めてくださる方もいらっしゃって。よく覚えているのが、本当に通りすがりの方が立ち止まって、かなり高い温度感で、デザインが天才すぎる!って。表紙だけ眺めに何度か往復した後、「この表紙がやっぱり気になっちゃって」って買ってくださいました。

村野
気になるよね。どんなお話なんだろうって。映画の予告みたいだよね、この表紙。

藤城
確かに近いかもしれないですね。

イトノ
ね。サンプルをいっぱい出さなくても、表紙見てもらえればちょっとわかるみたいなのも、なんか……お得だったね、イベント会場では。
わかりやすさも、賑やかさも、力強さもある最高の表紙です。

なぜジェンダーマイノリティなのか

イトノ
ミノリトは「ジェンダーマイノリティと明日を生きる創作誌」ってサブタイトルをつけてるんですけど、性的少数者の訳語を調べると、最初に出てくるのはセクシュアルマイノリティですよね。ジェンダーマイノリティって検索してもあんまり出てこないと思うんです。

藤城
じゃあ、なぜセクシュアルマイノリティではなくジェンダーマイノリティという語を採用したのか?というのも、最初に2人で話し合ったポイントだったね。

イトノ
性的少数者という大枠の中にいる人でも、別の属性の人、あるいは同じ属性の人をも差別してしまうことって普通にあるよねという話を、普段からまり子さんとしていて。
昨今、トランス差別がひどくなっている現状に対して自分たちで何かできないかというのがミノリトを作るきっかけのひとつだったので、そのトランスの当事者が排除されることを心配せず手に取れる雑誌であってほしいという思いがあった。
それを伝えるにはどうしたらいいかなってところから、ミノリトでは、ジェンダーマイノリティという言葉を採用した、という経緯がありました。

村野
よりマイノリティの方の単語を取ったんですね。

藤城
そうです。〇〇マイノリティって言った時に、ちゃんと自分もここに含まれてるかな?っていう疑問をわざわざ抱かずにいられるっていう方がいいよね、って。

イトノ
かといって、セクシュアルマイノリティを除外してるとかっていうことでは、全然ないです。

藤城
なので、英語表記の方で sexual and gender minority としました。

イトノ
海外では結構この言い方をするそうなので。カタカナでも言えたらいいんだけど、表紙に収めるには少し長くなってしまうというのもあり、この併記に落ち着きました。

生きたかった物語を、生きられるこの場所で

わだ
表紙の右上のところに、「生きたかった物語を、生きられるこの場所で。」って入ってるじゃないですか。
表紙にこのミノリトのキャッチコピーが入ってくるのもすごくいいなって私は個人的に思ってました。

村野
このコピー作ったとき、めちゃめちゃ色々話してたよね?

イトノ藤城
しました!!!

藤城
仮案を作っては村野先生に相談してフィードバックを受けていました。

村野
喧嘩もしたって言ってなかったっけ? このキャッチコピー決める時。

藤城
いや、あのね、結構ね、ミノリトの制作で、私とイトノさんは喧嘩してます。かなりいろんな場面で喧嘩してる。

村野わだ

村野
現在のキャッチコピーに至るまで色々聞いたけど、絶対これ、すっごい話し合っただろうなって。すごい伝わってきてたよ。

藤城
もうね、だいぶ記憶の彼方なんでかなり忘れてるんですけど。うん。

村野
でも、そのおかげでいいコピーになった。

わだ
本当にそう思います。

藤城
ありがとうございます。結構、最初の案から姿形はだいぶ変わっている。言いたいメッセージとしては変わってないんですけど。我々はコピーを作る仕事をしてたわけでもなく、完全にズブの素人なので、どうすれば伝わるか、っていうのはただただ模索するしかなかった。
最初のほうの案では一人称を使う案もあったりしたんですよ。やっぱりマイノリティにとって一人称めちゃめちゃ大事じゃないですか。

村野
うんうん。

藤城
だから並列で色んな一人称を並べるとかも考えたんです。けど、そうするとコピーとしては弱くなっちゃったりとか。

村野
長かったよね。もうちょっと短くした方がいいよ、みたいなこと言った記憶がある。

イトノ
これの一つ前が、「生きたかった場所がある、生きたかった物語がある」って、2文が繋がってる案だった。あとは「いつでも物語を求めている。明日を生きていくために」とか。やっぱりもう少し長めでしたね。

藤城
この2つはミノリトを表してるコピーではあるけど、読者に向けたコピーではなかったかもしれないね。

村野
やっぱりこう、ぎゅっと洗練されたよね。出来上がったものは。

イトノ
一人称を並べてたのはこれだね。「僕、俺、私たちの言葉を物語として語ろう。」

藤城
物語として語るみたいな言い回しが、前提がわかってる自分たちにはスッて入ってくるけど。
読者が見た時に、ん?ってなっちゃう。

イトノ
うん。当事者性の強い作家目線の言葉というか。
もちろん当事者の方に向けられた本ではあるんだけど、もうちょっと広げたいなって。語りたくない人や、その周りにいる人たちにも届けるにはどうするかとか、読者層の話は結構してましたね。

藤城
したね。今思うと、表紙を決める時がいちばん、ミノリトは誰に向けて作られてる本なのかっていう話をしたかもしれない。

イトノ
かなり話したよね。
表紙のロゴ下の「ジェンダーマイノリティと明日を生きる創作誌」というさっき話したサブタイトルも、仮案の表紙には入ってないんです。それを入れるかどうかも相当、検討しました。

村野
どう思うかって訊かれて、入れた方がいいって言った。

藤城
うん。そうだったと思います。
自分とイトノさんが入れない方向も考えた理由としては、表紙にジェンダーマイノリティって入っていると、クローゼットの当事者が手に取りづらくなったりするかな?という懸念があったから。
例えば、親兄弟と同居してるとか、プライベートな空間に他の人が入ってくる可能性があるところで生活してる人が「表紙を見られたら困るかも」って躊躇して、必要なところに届かなかったらやだよね、という話も上がったりしたんですよ。
けど、やっぱり、言わないと届く層にも届かないよっていうのは、いろいろな方からご助言いただいて。で、自分たちがミノリトを誰に届けたいのかとか、そういうことをもう一度話し直して、結果的に、入れるっていう方向に決めました。

村野
うん。入れた方がいいって言ったのは、もちろんそれが大きいんだけど、最初からブックカバー作るって話が出てたからというのもあって。

ブックカバーダウンロードページ

 

村野
ブックカバーをつけて棚に置いたら、他の人の目には届かないようにできるって言ってて、それがすごくいいなと思ったんだよ。表紙を隠したい人にも選択肢があるなら、と。

イトノ
そのブックカバーの案は、どうしようかって考えた先の折衷案というか。

村野
あれ。私、先に聞いたような気がしてた。

イトノ
そこまで話し合ってから最後に相談したのかもしれない。

藤城
もはや順番の前後が記憶から飛んでるね……。

イトノ
最初に文言入れるかどうするかっていうのは、表紙デザインの段階で百葉箱さんからお尋ねいただいて。それをまり子さんと2人で揉んだ時に、ブックカバーっていうのもありだよね、みたいな話が。

藤城
いや、あのね、ブックカバーは、イトノさんから、ぽっと出てきたの。

イトノ
そうだっけ。笑

藤城
何日かかけて文言載せる載せないの話をしてたんですけど、ある時脈絡なく、ポロッと、ブックカバー作ろうよって。なんか、色々ポロッと出てくるんですよ。イトノさんって。だから自分は、その文脈起点でブックカバー案が出てきたっていうのは、多分あんまり理解してなかった。あ、作るんだ、なら書いてもいいかもなぐらいの感じだった。

イトノ
そっか。

村野
揉んだ感あって、いいエピソードだ。
「かなり揉んだ後だな」と思いながら聞いていたから、こっちの方がいいよって言うのは簡単だった気がする。

藤城
村野先生に相談する時って、2人では埒が開かないから最後の背中を押してもらいたい、みたいなのが結構あったと思います。

村野
なんか、2人もう結構ボロボロだなっていう感じだったよ。

藤城
いひひひひ。
いや、本当に皆様の力添えがあってこその。

村野
「今コピー考えてて」とか、進捗を聞くのがすごく毎回楽しみだったし、その様子から、いやもうマジで作ってるな…っていうのがすごい伝わってきたので。だから、私もいいものを書きたいなと思えました。

▷ 次回『ミノリトを読む #2』は、『特集序文』『あなたを聴く』について語ります。お楽しみに!

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